聖霊降臨後第14主日
あな醜(みにく)、賢(さか)しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む(太宰師大伴卿、万葉集より)
賢そうに装って酒を飲まない人の顔は醜い、よく見れば猿に似ているようだという意の一首ですが、色んなことを考えさせられます。自分は曲がったところなど一つもない、真っ直ぐに生きている。酒、煙草、そんなものは一切取らない。そんなものに溺れるなんてことはあり得ない。世の中でこう言う人のことを真面目一本やりと言いますが、しかし、この一首はそういうことを主張する人の顔をよく見てご覧なさい、猿に似ているようですねと皮肉を言っています。
猿というと、なんだか猿を貶めているようで猿に申し訳ないのですが、ここで言いたいことはつまり、賢さを装って、威張って、すぐれた識見を見せびらかせているあなたは人間にはほど遠い存在ですねということなのでしょう。この一首には、人間とはどういう存在なのか、人間とは何者か、そういう意味での人間観が見事に表現されているわけです。
今日の福音にもなにやら「わーわー」言っている真面目一本やりのファリサイ派と律法学者たちが登場します。時と場所は異なりますが、大伴卿の詠んだ一首にこの状況を当てはめますと「あなたたち、猿のような顔をしていますが、人間になりなさいよ」というメッセージが響いてくるような気がします。イエスは群衆を呼び寄せて人間とは何かを教えてくれます。群衆のひとりであるわたしにも、おまえの内側から出てくるあれやこれやを正直に吐露しなさい。まぁ、一杯飲みながら……聞いてあげるよと声をかけてくれているような気がします。短い夏の終わりに、少し立ち止まってみたいと思います。
マルコによる福音書7章1-8、14-15、21-23節
2021年8月29日