「塗油の式」
8月の上旬、施設で塗油の式を行いました。塗油の式は、その年の聖木曜日(イースターの3日前)、主教座聖堂で主教が聖別したオリーブ油を各司祭が持ち帰って、それを右手の親指につけて病人の額または胸に十字の形を記します。聖公会では、5つの聖奠的諸式(準サクラメント)の内の一つに位置づけられています。
病者の塗油は、恐れと痛みを抱えている病者に、イエスが「だいじょうぶだよ」と直接触れてくださる聖奠的諸式(準サクラメント)であります(祈祷書335頁参照)。
新約聖書には、イエスが病気や障がいを抱えた人に、 深い憐れみを持って直接触れる姿が数多く記されています。「イエスが深く憐れんで、その目に触れられると、盲人たちはすぐ見えるようになり、イエスに従った」(マタイ20:34)。
行く先々で目の見えない人、耳の聞こえない人、熱を出して寝込んでいる人に触れ、さらには人々から見捨てられ、近寄ることすら恐れられていた重い皮膚病を患っている人に、 直接触れます。そうしてイエスに触れていただいた人はみんな、体も心も癒され、恐れと絶望から解放され、神の愛を信じる人生をはじめるのである。 塗油の式において、信じるものはみな、このイエスのわざを体験します。 司祭が「いつくしみ深い主キリストが聖霊の恵みであなたを助け、罪から解放して、あなたを救い、起き上がらせてくださいますように」という思いを持って聖別した油を塗るとき、人はイエスに触れています。すなわち、天の父の親心に直接触れているのです。
誰にとっても、病気はつらいものです。体の痛みもさることながら、恐れと孤独という魂の闇が、つらいのです。そんなとき、まことの親である神が無限の親心を持って、わが子をその手で抱きしめてくださっているという信仰なしに、どうやって魂の平和を保つことができるでしょうか。
かつてこの塗油の式は、臨終の人に授けられていたことから、死の間際にならないと受けられないと誤解されてきましたが、これは死ぬための聖奠的諸式(準サクラメント)ではなく、信仰に強められて真に生きるための聖奠的諸式(準サクラメント)であります。何度でも受けることができる聖奠的諸式(準サクラメント)です。
「老い」自体は病や障害ではありませんが、体が衰え、死を意識し、恐れと孤独と向かい合う日々こそは、イエスに触れていただく恵みを必要としているのではないでしょうか。 希望者は、司祭まで申し出てください。
2024年9月15日発行
西宮聖ペテロ教会 教報ともしび 第182号